大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(ラ)409号 決定

抗告人

高窪圧治

高窪和男

右代理人弁護士

丸山正次

菊地博泰

高野隆

大塚嘉一

相手方

高窪秀雄

高窪富子

主文

原決定を取消す。

本件を浦和地方裁判所に差戻す。

理由

一本件抗告の趣旨は、主文と同旨の裁判を求めるというのであり、その理由は、「本件提出命令の申立人ら(抗告人ら)は、治療行為の当事者の相続人であり、治療行為の当事者と同視すべきものであるから、そのような者にとっては、診療録(看護日誌等も含む。以下「本件診療録」という。)は、民事訴訟法三一二条三号前段の利益文書でもあり、同号後段の法律関係文書でもあるというべきである。したがって、本件診療録について、同号前段及び後段のいずれの文書にも当たらないとして、文書提出命令の申立を却下した原決定は、誤っている。」というにある。

二当裁判所の判断

1 診療録は、医師法二四条に従って、医師が、患者を診察したときは診療に関する事項を記載するものとして作成が義務づけられる文書であるところ、右は、医師に対し、患者の適正な診療を行わせることを目的として、医師にその診断の適正を診療録の記載によって証明させ、それによって、行政目的を達成しようとするものであって、診療に関する事項が法律の要請に基づいて記載されている文書ということができる。してみると、本件診療録は、患者自身と同視しうる立場にある抗告人らと春日部東部病院との間の法律関係について作成された文書ということもできるから、民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当するものと解される(なお、同条同号前段の文書に該当しないことは原決定理由のとおりであるからこれを引用する。)。

2  ところで、相手方高窪秀雄は、「提出命令の対象となっている文書の記載内容が職務上の秘密に属するなど文書の所持者に守秘義務があるときは、当該文書の提出を拒否することができるところ、診療録は患者の秘密に関する事項を記載したものであって、その提出を拒むことができるから、本件提出命令の申立は却下されるべきである」旨主張する。しかし、本件において春日部東部病院が文書送付嘱託に応じないのは、抗告人らと相手方ら間の紛争に係わりたくないため、現段階ではこれを提出できないというものにすぎず、守秘義務を理由とするものではないし、また、抗告人らと相手方らとは患者である利平の子であり、利平の秘密を保持する必要は存しないから、右相手方の主張は理由がない。

三よって、本件申立てを却下した原決定は失当であるからこれを取消すこととするが、本件は第三者に対し文書の提出を求める申立であるから、当該第三者の審尋を必要とするところ、原審においてなされていないし、また、本件申立にかかる文書を提出させる必要性についても原審において判断させるのが相当であるので、民事訴訟法四一四条、三八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 大谷正治 裁判官 板垣千里)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例